【前編】『風立ちぬ』を見て号泣の巻き〜無常観、それでも世界は美しい〜

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号泣。途中からずっと号泣。
数週間前になりますが、宮崎駿監督、長編引退作品『風立ちぬ』を見に行ってきました。DVDが旧作になるまで待てなかったというか、たまたま一緒に見に行く人がいただけなのですが・・・
 
でも、これは映画館で見て良かった。マジで。『風立ちぬ』見ようと言ってくれてありがとう。僕の中では、『風立ちぬ』がジブリ最高傑作になりました。大人のジブリ
 

 

さて、作品解説は、町山さんと宇多丸さんのを読んでもらうとして、以下は僕の感想と妄想です。
 
・町山さんの解説  
宇多丸さんの解説
 

宮崎駿の無常観

あの宮崎駿さんが最後に描くのがこんなに無常な世界なのかと思うと同時に、なんて美しい映画なんだろうと。
 
二郎は子供のこから、飛行機のことばっかり考えて夢見てて、会社に入ってからも夢中で飛行機の図面を描いてるんです。人が話しかけても気付かないぐらいに夢中になって。
菜穂子が倒れたという知らせを聞いて、急いで列車に乗って会いにいくんですけどね、泣ながらまだ図面描いてるんですよ。
 
菜穂子も治療の為に、空気の綺麗な人里離れた病院で療養してるんですけど、自分が余り良くないことがわかってるから、二郎のもとへ結婚する為に病院から出てきちゃうんです。
 
そんな二郎が病気の菜穂子の手を握りながら、図面を書いた零戦がやっと完成したかと思ったら、
空を見上げる二郎を写したカメラがぐーんと空に上っていくんですよ。
もう言わずもがなでしょ。
 
その後、二郎は戦闘機の墓場みたいなところを歩いてくんです。
まあ、ゼロ戦ですから歴史的にそうなりますよね。
 
愛する人と自分が生涯を懸けて作ったものが、二郎の前から消えていくんです。
もう本当にね、どうしようもないんですよ。
 
絶望。なんたる無常。
 
人生何もないじゃないか・・・て僕、号泣ですよ。
僕も薄々、人生って、成功してもお金があっても結局、何もないのではなかろうか、空っぽなんじゃないか・・・・なんてね、ちょっと思ったりしてたんですけど、
世界の宮崎駿に、しかも引退作品で、こんな映画見せられたらね、
やっぱり人生何もないのか!!
て確信に変わりました。
 
映画のラストで「生きねば」ってメッセージが入るですけど、
なに、その取って付けたような「生きねば」って・・・?(←これはお持ち帰りの宿題ということで、その後一週間鬱々としながら考えました。)
いや、僕にはムリ・・・
耐えられない・・・
もう生きてるの嫌なんだけど・・・
てな感じで、ホント憂鬱な気分になりました。

それでも世界は美しい

でも、この映画は美しいんですね。特に風景・背景がただひたすら美しいんです。町山さんも言ってますけど、モネのイメージというか印象派のタッチがちりばめられてますね。
 震災とか戦場のシーンも美しく描いてあるんですよ。

f:id:kontonwa:20131227010828j:plain「散歩、日傘をさす女」1875 

 

印象派のタッチについて

で、少し脱線なんですが、印象派のタッチとはなんぞやというところを。

まず、印象派は光の表現を目指してます。光の見え方には減法混合と加法混合とがあるんですが、これです。

f:id:kontonwa:20131227020623p:plain減法混合f:id:kontonwa:20131227020741p:plain加法混合

ふつう、色を作る時ってパレットで混ぜますよね。

でも、パレットで混ぜていくと、加法混合になり、どんどん黒くなっていくんです。

光、もとい明るさを表現したい時に、加法混合は不利なんですね。

で、そのときに使うのはディスプレイなんかに使われている減法混合の方法です。こちらは、原色を三つ並べて遠くから見るとそれが白く見えるって現象です。

いわば、パレットで混ぜるんじゃなくて、人間の網膜で色を混ぜると言ったところです。

こうゆうことが印象派の絵画で使われていて、それがジブリ映画にまで使われているんですね。

 

不謹慎なほどの美

本題に戻りますが、これは、良識のある方には理解しづらいんですけど、絵描きというか芸術関係の人って、そういう不謹慎な状況でも綺麗に見えてしまうものなんですね多分。

頭のネジがはずれちゃってるんです。
僕は山下清さんの展覧会に行ったことがあるんですけど、彼もちぎり絵で綺麗な戦場を描いてました。僕は最初大きな花でも咲いてるのかなと思って眺めてたら、
それ爆弾が破裂してるところだったんですね。
 
狂気を感じますね。
 
あと、僕の個人的な意見ですけど、光の入れ方はフェルメールっぽいなと感じました。

f:id:kontonwa:20131227102607j:plain「天秤を持つ女」1664

 
フェルメールが日本家屋を描いたら、こんな感じかなーなんて。日本家屋が本当によく描かれていて、柱や床の照りがその建物が経た時間を濃密に感じさせるんですね。
この建築物がこの映画の世界観を十分に語ってるんです。
 

すばらしきかな背景

宮崎駿さんがどこだか忘れましたが、「背景は映画の品格」と言っていたのを思い出しました。
最後のエンドロールで背景だけが何枚も映し出されるんですけど、これは人がいなくなった世界を見せたいんじゃなくて、
駿さんは、この背景を見てくれよ!!って言いたいんだと思って見てましたけど、これが最高に綺麗でしたね。
背景だけで号泣できました。
 
映画が終わって明るくなったら、一緒に見に行った子が、「泣きすぎじゃない!?(笑)」って、僕にハンカチを貸してくれました。